副業が「事業」と認められる基準とは?税金が安くなるメリットと申請方法を解説
この情報は2024年5月時点の法令に基づいて執筆されています。税法は改正される可能性がありますので、最新の情報にご注意ください。
はじめに:副業の税金で不安を感じていませんか?
副業を始め、収入が増えてくると、「税金はどうなるのだろう」「確定申告は必要なのだろうか」といった不安を抱える会社員の方は少なくありません。特に、自分の副業が税務上どのように扱われるのか、そしてそれによって税金がどれくらい変わるのかは、多くの方が疑問に感じる点ではないでしょうか。
実は、副業の所得は、その性質によって「雑所得(ざつしょとく)」と「事業所得(じぎょうしょとく)」の2種類に大きく分けられます。この区分によって、利用できる節税の制度や確定申告の手間が大きく変わってくるのです。
本記事では、副業が「事業所得」と認められるための具体的な基準、事業所得として申告することで得られる大きな節税メリット、そして事業所得として申告するために必要な手続きについて、税務知識がない初心者の方にも分かりやすく解説いたします。ご自身の副業がどちらに該当するのか、またどうすれば合法的に税金を抑えられるのかを理解し、安心して副業に取り組むための一助となれば幸いです。
1. 副業の種類と税務上の区分:雑所得と事業所得の違い
副業から得られる所得は、主に「雑所得」か「事業所得」のいずれかに分類されます。この区分は、利用できる節税制度に大きく影響するため、正確に理解することが重要です。
1-1. 雑所得とは
「雑所得」は、所得税法に規定されている10種類の所得のうち、いずれにも該当しない所得の総称です。副業の場合、主に以下のような特徴を持つ所得が雑所得に分類されることが多いです。
- 規模が小さい: 趣味の延長や、一時的・偶発的に得られる収入など、事業として継続的に行っているとは言えない程度の規模。
- 継続性・反復性が低い: 不定期に行われる単発の仕事や、年間を通してほとんど活動がない場合。
- 独立性が低い: 特定の企業や個人から指示を受けて行う業務で、自己の判断や責任で事業を運営しているとは言えない場合。
例えば、フリマアプリでの不用品販売、一時的なアンケートモニター報酬、原稿料や講演料などが該当することがあります。
1-2. 事業所得とは
「事業所得」は、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業、その他の事業から生ずる所得を指します。副業が事業所得と認められるためには、一般的に以下の要素が総合的に判断されます。
- 継続性・反復性: 利益を得る目的で、継続的かつ反復して行われている活動であること。
- 独立性: 自己の責任と判断に基づいて行われ、他人から指揮監督を受けないこと。
- 事業規模: 収入の多寡だけでなく、その活動に投下している時間、労力、設備などが社会通念上、「事業」と呼べる程度であること。
例えば、継続的にWebサイト制作を受注している、定期的にハンドメイド品を販売している、講師業を継続して行っているなどのケースが考えられます。
1-3. なぜ「事業所得」を目指すべきなのか?
雑所得と事業所得の一番大きな違いは、青色申告特別控除などの特例が利用できるか否かです。事業所得であれば、青色申告を選択することで、大きな節税メリットを享受できます。この点は後ほど詳しく解説します。
2. 「事業所得」と認められるための具体的な基準
副業が「事業所得」と認められるかどうかは、税務署が個別の状況を総合的に判断して決定します。明確な線引きがあるわけではありませんが、一般的に以下の点が重視されます。
2-1. 継続性・反復性
「事業」と呼ぶためには、その活動が一時的なものではなく、継続的に行われ、かつ反復して収入を得ていることが重要です。例えば、一度だけ友人の手伝いでお金をもらった場合は雑所得ですが、毎月のように同じ種類の仕事を受注している場合は、継続性・反復性が認められやすくなります。
2-2. 独立性
自己の責任と判断に基づいて事業活動を行っているかどうかも重要な要素です。特定の会社に雇用されて行う業務(給与所得)とは異なり、自身の裁量で仕事を選び、遂行し、結果に対して責任を負う形態が求められます。
2-3. 事業規模
収入の金額だけで判断されるわけではありません。例えば、以下のような点が総合的に評価されます。
- 投下資本: 事業を行うために、設備や材料などにどの程度の費用を投じているか。
- 投下時間・労力: その活動にどれだけの時間や労力を割いているか。
- 帳簿の整備状況: 収入や経費を適切に記録し、管理しているか。
- 事業活動の広報: 名刺を作成したり、Webサイトでサービスを宣伝したりするなど、積極的に事業活動を行っているか。
たとえ年間の収入が少なくても、上記のような要素が認められれば、事業所得として認められる可能性は高まります。
2-4. 生計維持の状況(通達の変更点に注意)
2022年の税制改正では、副業収入が300万円以下の場合、原則として雑所得とする方向性が示されましたが、その後、国民からの意見を踏まえ、帳簿書類の保存があれば、事業所得として認められる可能性が残されるという形で運用が見直されました。
これは、「副業収入がいくら」という金額基準だけでなく、「記帳・帳簿保存」という客観的な証拠が、事業所得と判断される上で非常に重要であるという認識が強まったことを意味します。
3. 「事業所得」の大きな節税メリット
副業が事業所得と認められることで、税務上、様々なメリットを享受できます。特に、青色申告を選択できるようになる点が最大の魅力です。
3-1. 青色申告特別控除(最大65万円の所得控除)
事業所得者または不動産所得者は、税務署に「青色申告承認申請書」を提出することで、青色申告を選択できます。青色申告の最大のメリットは、青色申告特別控除です。
- 最大65万円控除: 複式簿記で記帳し、e-Tax(電子申告)または電子帳簿保存を行って確定申告書を提出することで、所得から最大65万円を控除できます。所得税だけでなく、住民税も減額されるため、非常に大きな節税効果があります。
- 10万円控除: 簡易帳簿でも、10万円の特別控除を受けることができます。
この控除額は、他の所得控除とは別に適用されるため、税額を大幅に減らすことが可能です。
3-2. 損益通算
副業が赤字になった場合、その赤字を給与所得など他の所得と相殺(損益通算)することができます。これにより、本業で納めた所得税の一部が還付される可能性があります。雑所得の場合は、他の所得との損益通算はできません。
3-3. 専従者給与・事業専従者控除
事業主と生計を一にする配偶者や親族が、その事業に専ら従事している場合、事前に届出を行うことで、その支払った給与を必要経費とすることができます(青色事業専従者給与)。ただし、一定の要件があります。 青色申告でない場合(白色申告)でも、事業専従者控除として一定額を控除できます。
3-4. 減価償却
パソコンや高額な機材など、事業のために使用する固定資産は、その取得費用を一度に経費とするのではなく、耐用年数に応じて数年間にわたって少しずつ経費として計上することができます。これが「減価償却」です。これにより、毎年安定した経費を計上し、計画的な節税が可能になります。
3-5. 家事関連費の按分
自宅で副業を行っている場合、家賃や光熱費、通信費など、家事と事業で共通して使っている費用の一部を、事業の経費として計上することができます。これを「家事関連費の按分」と呼びます。事業で使用している割合を合理的に計算して按分することで、節税につながります。
4. 「事業所得」として確定申告するためのステップ
副業を事業所得として申告し、上記のようなメリットを享受するためには、いくつかの手続きが必要です。
4-1. ステップ1: 青色申告承認申請書の提出
事業所得として青色申告を行うためには、税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
- 提出期限: 青色申告をしようとする年の3月15日までです。その年の1月16日以降に新規開業した場合は、開業日から2ヶ月以内です。
- 提出先: 所轄の税務署(納税地を管轄する税務署)に提出します。
- 申請書の書き方: 提出書類には、開業年月日、事業内容、所得の種類などを記入します。難しい項目はありませんので、国税庁のWebサイトや税務署の窓口で入手し、記入例を参考に作成してください。
4-2. ステップ2: 帳簿付けの義務
青色申告を選択すると、日々の取引を帳簿に記録する義務が生じます。
- 簡易簿記と複式簿記:
- 簡易簿記: 小規模な事業向けの簡単な記帳方法で、10万円の青色申告特別控除が受けられます。
- 複式簿記: 専門的な記帳方法ですが、最大65万円の青色申告特別控除を受けるためには原則として複式簿記が必要です。
- 会計ソフトの活用: 簿記の知識がなくても、市販の会計ソフト(例:弥生会計オンライン、freee、マネーフォワードクラウド確定申告など)を使えば、比較的簡単に複式簿記での帳簿付けが可能です。銀行口座やクレジットカードとの連携機能を利用すると、記帳の手間を大幅に削減できます。
日々の収入と経費をきちんと記録することで、事業の実態を明確にし、税務署からの信頼を得ることにもつながります。
4-3. ステップ3: 確定申告書の作成と提出
青色申告承認申請書を提出し、帳簿付けを終えたら、翌年の確定申告期間(通常2月16日〜3月15日)に確定申告書を作成し、提出します。
- 提出書類: 主に所得税青色申告決算書と所得税確定申告書Bです。
- 作成方法: 会計ソフトを利用すれば、帳簿データからこれらの書類を自動で作成できます。e-Taxを利用すれば、自宅からインターネットを通じて簡単に提出が可能です。
まとめ:合法的な節税で副業をより賢く
副業が「事業所得」と認められることは、会社員の方にとって、青色申告特別控除や損益通算など、多くの節税メリットを享受する大きなチャンスとなります。
大切なのは、「なんとなく」ではなく、ご自身の副業が税務上どう扱われるべきかを理解し、適切な準備と手続きを行うことです。まずは、ご自身の副業が継続性・反復性、独立性、事業規模の観点から「事業」と言えるのかを判断し、可能であれば「青色申告承認申請書」を提出し、日々の帳簿付けを始めることから着手してみてください。
税金に関する知識は難しいと感じるかもしれませんが、正しい情報を知ることで、不安は解消され、合法的に税金を抑えることができるようになります。本記事が、皆様の副業収入における賢い税務対策の一助となれば幸いです。